【ファラオの密室】率直な感想
読了直後の感想は、『エジプト文明についてもっと深く知りたくなった』です。
歴史ミステリーをあまり嗜んでこなかったので、知らないことばかりで面白く、知見も深まったので軽い言い方ですが、とても得した気分になりました。
ただのミステリー小説ではない、ラストに感動のストーリーが待っています
そして、そしてそして!
ラストの章では、感動の事実が発覚し、驚きと、充足感と、寂しいけれど嬉しい…ふしぎな感覚になりました。
なので必ず、最後まで読んでほしいです。
歴史なんて知らない!興味ない!って方にもぜひおすすめしたい1冊になりました。
物語のはじまりは、エジプト王の葬送の儀(日本で言うお葬式のようなもの)から始まります。
始めの章は、エジプト文明ならではの死生観、ミイラ職人の登場など日本人には考えられない価値観をストーリーを通して説明してくれるような流れとなっており、話に入りやすかったです。
さらに、神々の話や王(ファラオ)と神官、警察、そして奴隷の関係性など当時の宗教観や政治的な要素も含んでおり、作者のエジプト文明への愛を感じました。

何より、あの誰でも知っている王墓(ピラミッド)を舞台にしているので、風景を想像しやすく「実際にピラミッドを見てみたいな」という気持ちにすらなりました。
歴史音痴でエジプト文明をほぼ知らないわたしでも感情移入できましたし、さすが第22回「このミステリーはすごい!」大賞作品なだけあります。
しかも、ただエジプト時代のストーリーとミステリー要素というだけではなく、そこには登場人物の細かな感情表現と緻密に絡んだ人間関係があり、それがまた大きな魅力になっている気がしました。
【ファラオの密室】登場人物
セティ
この物語の主人公。上級神官書記。
真面目で温厚、曲がったことが許せない性格。
王墓(ピラミッド)の崩落事故で亡くなり、自らの死の真相の解明と心臓の欠片を探しに現世に戻る。
タレク
ミイラ職人。セティの親友。
先王アクエンアテン王のミイラ作りを任されるほどの腕の持ち主。
がゆえに、多少自由なふるまいも許される特異な存在。
カリ
奴隷の少女。王墓(ピラミッド)の素材となる岩を運ぶ仕事をしている。
生まれはハットゥシャ(現在のトルコ南部)で、異国の生まれなのが仇となり他の奴隷よりも執拗に嫌われてしまう。
本来は、素直で理知的だが、度重なる不幸のせいで自暴自棄になっている。
物語の始まり方は?
時は、太陽神アテンのみを崇拝し、多神教のエジプト文明の中で唯一の一神教を築いたアクエンアテン王の時代。
そのアクエンアテン王が死去、その葬送の儀を直前に控えたある日。
神官書記のセティは王の墓であるピラミッドの崩落事故で亡くなります。
そして、セティは棺の中で目覚め、現世から冥界へ渡るからナイルの川を渡り、『真実をつかさどる神マアト』より死者の審判を受けることに。
が、秤にかける心臓が欠けていて審判ができないと告げられてしまいます。
そして、ミイラとなったセティの体なら3日間のみ現世に戻れると言われ、心臓の欠片を探しに行くことに…。

結局【ファラオの密室】の魅力とは。読書初心者だからこそオススメできるポイントまとめ
結局のところ、何がよかったかと言うと。
エジプト文明は、現代とは全く違う宗教観とミイラとして2度生きられる、というエジプトならではの死生観を軸に、ミステリー要素である謎解きがはじまります。
その現代では考えられないSFチックな設定がおもしろかったです。
始めのころは「いやいや、そりゃないでしょw」というところもありましたが、読み進めていくうちに「あ、当時のエジプトの信仰的には普通なのか」と自然と受け入れられている自分がいた、といった感じです。
これも、作家の白川尚史さんの文章力があってこそなのでしょう。
セティはミイラになって現世に戻り、タレクやメリラアたちに会うところから物語が動き始めるのですが、死んだ人間が普通に話しかけてくるなんて本来はホラーですよね?
わたしなら恐ろしくて一度は逃げます、確実に。笑
ですが、そこはエジプト!
そんな超矛盾点をむしろ生かしたかったのでは?という意図を感じました。
そして、ふと思ったことが。
この独特なエジプト文明の特徴、ある意味では仏教とも通じる部分があるのかな、と。
個人的な見解ですが、この「ファラオの密室」で度々伝えられてきた死への考え方や来世や死後の世界を意識している部分が、日本人の死者を弔う儀式(葬式)や仏教の輪廻転生の観念に通ずるものがある、と感じたのです。
死んでミイラになり、ナイルの川を渡り、もう一度生前と同じ姿でよりよく生きる(言い方が難しい、語彙力0ですみません)ために現世を一生懸命生きる、という考え方。
日本人も毎年お盆やお祭りで死者を厚く弔います。
家族や親せき、仲の良い友人と故人との思い出を語らいますよね。
そしてなにより、人として生きる以上絶対に避けられない『死』を取り巻く人間関係を物語の根幹として取り入れていることに、私自身改めて人と人との結びつきについて考えさせられました。
だからこそ、エジプト文明をもっと知りたい、勉強したい!と思ったのです。
ファンタジーと宗教観。
似て非なるものですが、そんなこともない。
何度も言いますが、歴史が苦手だったり、ミステリー小説に慣れていない方にもオススメできます。
前半は世界観を掴むのに「?」と、なるかもしれません。
が、そこはぐっと我慢!
セティの死だけでなく、幾重にも謎が張り巡らされますので、先の展開が気になって仕方なくなります。
自分たちの生きる世界とは全く違うあたらしい物語を読んでみたい!という方はぜひ。